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ブックマークに溜まった怖い話を集約
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封じ 後編
俺的に一番危険だったのは、帰りの車内であって『封じ』の一件はちょっとサプライズなイベントみたいなものだ。

俺の部屋で厄払いの酒盛りをする事にした。なんと言っても、今回の『封じ』の「云われ」を友明に聞かなくてはならない。
それで全て終わる。



俺と泰俊は焼酎、友明は缶ビールで乾杯をし友明が語りだす。

「俺も全て詳細に知っている訳じゃない。俺等『御役』4家には、『封じ』は昔話みたいにして伝わっていて、家長にならないと全ては解らない。」

左手にビールを持ち替えツマミをあさる。

「今回、俺は親父の代理だった訳で『封じ』の作法しか新しい情報はない。作法の話をしても泰俊は面白いかもしれないが康介は暇だろうから『御役』に伝わる昔話をしようと思う。」





江戸時代の初め頃の話。大きな戦があってその村の男衆も大勢亡くなった。働き手を欠き、残された村人は餓えに苦しんだという。
それでも戦が無くなり次第にもとの生活に戻っていった。こういう事があったからか、この村では多産で網で獲物を捕らえて放さない『蜘蛛』を大切にする様になったそうだ。

(今でいう「コガネグモ」で地元では「ダイジョウ」と呼んでいた)

そしていつしか蜘蛛の世話は必ず男がし、女は触れてはならない。蜘蛛を殺すことは御法度などの村律(そんりつ)『村の掟』が出来たという。


ある時、この村の名主の家で婚礼があった。隣村から名主の次男坊を婿に迎えたのだ。
若夫婦は仲が良く、妻はすぐに身籠った。名主夫婦も大変に喜び孫はまだか?と言わぬ日がない程だったという。

しかし、隣村から来た婿はどうしても蜘蛛に馴染む事が出来なかった。

ある日、婿が涸れ井戸のほとりを歩いていると見た事も無い大きな蜘蛛がそこにいた。
彼は、これ程の蜘蛛だから家人に見つかれば必ず自分が世話をさせられると思い、蜘蛛を殺して井戸へと捨ててしまう。
それを運悪く身重の妻に見られてしまう。
妊婦のいる家での蜘蛛殺しは御法度であり不吉と考えられていたので、妻は夫をなじった。詰め寄る妻をなだめていたが、揉みあっている最中に誤って妻も井戸へと落ちてしまった。

すぐに助けを呼んだが妻は井戸の中で亡くなっており、惨いことに落ちた衝撃かどこかにぶつけたか腹が裂け赤ん坊が外へ出てきていた。
女の子であったが助からず当時は、水子は供養されること無くそのまま井戸の底に埋められたのだという。


それからしばらくたった夜に「猫の声の怪異」が始まった。

聞く人が聞くと「まんま、まんま」と言っているという。

その内、夜、寝ている間に体を虫に何ヶ所も齧られるという家人が増えていった。傷口は治りが遅く、ヒドイ痛みが伴った。そしてこういった出来事は決まって「猫の声の怪異」があった晩であった為、若夫婦の水子が空腹の余り化けて出ているとの噂が流れていったそうだ。

そしてとうとう婿もこの怪異に遭ってしまう。しかしいつもと違い、齧られるというより喰われると言った方がいい状態で出血もひどかった。
だが、婿本人は痛みすら感じておらず、これ以降他人がこの怪異に遭うことは無くなったが、婿は少しづつ・・少しづつ・・喰われていった・・・。



名主の老夫婦は一人娘を失ってから婿に辛く当たり怪異の対象が婿1人になると婿を実家に追い返した。ところが婿が居なくなると怪異の災いが村中へと広がってしまった。明らかに婿を捜している様子だったので、村のために婿を呼び戻す事になったが、隣村の名主は息子が魔物に喰われていくのを黙って見てはおれず申し入れを断った。


困り果てた老夫婦は遠方の寺に使いを出し怪異を鎮めてもらうよう懇願した。
知らせを受けた寺の者達は、このような怪異を鎮める法を知らず困っていると、ちょうどこの寺に逗留していた旅の雲水がこの役を買って出たという。


雲水が使いの者と村に着いたときには村人ほとんどが怪異に遭い、疫病のようになって死に絶えていたそうだ。使いの者は恐れ慄いて逃げ出そうとしたが何とか怪異の元の名主の家まで案内したのだが、老夫婦も既に亡くなった後だったという。

雲水は怪異の正体を探るため、結界を張りそこで一晩を過ごした・・・。


数日が過ぎ、雲水は隣村の婿のもとへ現れた。婿と親夫婦の前で雲水は語る。



「婿殿はタチの悪い蜘蛛を殺されたのであろう。彼の村が蜘蛛を祭るを知り遠方より流れ来たる古の悪霊が蜘蛛に取り憑いたモノです。貴方は良い事をされた・・・。しかし肉より離れた悪霊は今度は貴方の奥方に取り憑き貴方を陥れようとしました。しかし貴方に付いている神がそれを許さず、奥方ごとまた地獄へ送り返されました。

ここで不憫なのは奥方もさることながら御腹の赤子です。死した蜘蛛にも子があったようで、今、魂は混じり合っています。
井戸は冥界に通じ、魔物を産む産道となって人の子が親を慕うが如く、蜘蛛の子が親を喰らうが如く起こったのがこの怪異です。


貴方はこれらの魔物の親として祭らねばなりません。死した後喰われ、御霊を安んじ四方四家を建て鎮まるまで・・。」



その後、婿は雲水の指導の下、井戸で『願』を立て僧籍に入ったという。




コップを持ったままだったのに気付き、俺は焼酎を一口呑んだ。

寺で見た名札。

あれ程続けてまだ成仏していない魔物・・・。
泰俊も心なしか顔色が悪い。


しこたま呑んで俺達は寝た。


起きた時、泰俊の姿が見えなくなっていた。携帯に連絡しても応答がない・・。連絡が取れなくなって数日後、泰俊から俺宛に手紙が届いた。

いきなり居なくなり、連絡を取らなかった事をまず詫びて、その事は書かれていた・・・。


泰俊は今、ある場所に閉じこもり御払いを受けているという。井戸で見た女の子が取り憑いているそうだ。

蜘蛛と人の融合体。一番封じなくてはならなかったモノ。

でもなんで泰俊に?

泰俊がいうには婿が僧籍になってもらった名が『タイシュン』(泰俊)。
泰俊(やすとし)と同じ名前だった。寺で名札を見て一目でわかったそうだ。

魔物が親と間違えたのか?他に何か理由があるのかはわからない・・・。

俺達は手紙のやり取りで魔物の事を『蜘蛛水子』と呼んだが、本当の名が何なのか未だに知らない。

泰俊が最初に見た無数の魔物の方が蜘蛛の性が強く親を喰いに行き、井戸の横にいた女の子は人の性が強く親を慕ったというのが俺達2人の結論だ。女の子は昔から居たのか、泰俊が居たから出てきたのかわからない。
女の子の存在を友明を含め4人の御役も知らないようだった・・・。


例の寺にも新しい住職が出来た。なんと友明だ。坊主の真似事すらした事のない奴がだ・・。まるで生贄だと思った。 
  実際そうなのだろう・・・。友明は泣いていた。今度遊びに行く・・・・。


あれから随分、時が過ぎた。




・・・・泰俊はまだ出てこない・・・・・・・・




アパートに帰り着くと郵便受けに手紙が入っていた。色気のない茶封筒に墨字。間違いない泰俊からだ。今回少し間が空いたので心配したが元気そうだ。宛名の文字に力がある。


部屋に入り封を切る。封筒の文字とは裏腹に手紙の文字には乱れがあった。
俺は手紙から目を離して、昔あった出来事を思い出そうとし、それはありありと脳裏に浮かび上がる。

手紙にはある住所と 「待っている」 の一言だけ。

異変があったのだ。そして泰俊が俺に助けを求めている。カバンに必要なものを投げ込み、駅へと向かった。



電車を降り、駅の改札に向かうと一人の僧と目が合った。
若いが怖い眼をしていた。坊主が一体何を見続けたらそんな眼になるんだ? ふと考えてしまうくらいの眼光だ。
彼は無言で立ちすくむ俺の所まで来ると 「こちらに・・・」 とだけ言って俺の荷物を持ち外へ出る。

車に乗せられ一時間程で目的地に着いたが、そこは坊主に合いそうでどう考えても合わない場所。とだけ述べておく。俺一人だったら、手紙の住所と見比べて立ち往生しただろう事は明白だった。

裏口より入り、こじんまりとした庭を左手に見て廊下を進んだ。チョッと離れた庭石に15~6歳位だろうか和服の女の人が背中を見せて座っている。少し歪な何かを感じた。

丁度、庭を半周したあたりで右に曲がる。すると雰囲気が一変し、そこはどう見ても寺内の廊下といった趣で、キツネにつままれた様な不思議な感覚に陥った。

突然、前を歩く若い僧が立ち止まり、
「気分はいかがですか?」 と聞いてきた。前述の感想を告げると、

「あなたにも何がしか憑いていた様ですが堕ちたようです。角を曲がってこちら側は結界が張ってありますので悪しきモノや取り憑かれた者は入る事が出来ません。ではこちらに・・・。」 と一室へ案内された。


その部屋には既に先客が二名居たが、その片方を見て俺は思わず叫んだ。

「泰俊!!」

恐らく笑ったのだろう。唇がわずかに動いた。そこには痩せ衰え、骨と皮だけになった泰俊が僧衣をまとって静かに座っている。涙が溢れ、思わず泰俊にすがりつき手を握る。思いの外、強く握り返して来た。瞬間、希望の炎が灯る。(コイツはまだ大丈夫だ)と・・・。




顔を上げると、
「け・・・けんきそうた・・な・・なくな・・はか・・・」 とかすれた音(声)が聞こえた。

コイツが手紙を書き携帯を使わない理由がこれだった。また泣きそうになり 「うるさい」 とやっと返した。

「は・・・ななし・・を・・そふから・・たのむ・・」 俺はうなずいた。

あの泰俊が俺を頼っている。・・・俺は決めた。



泰俊が若い僧に連れられ部屋を出た。部屋には俺と恐らく泰俊の祖父であろう僧が一人残った。おもむろに太いが優しい声で僧が語る。

「康介君。今日はご足労願って申し訳ない。わしは泰俊が祖父で道俊という。今、御覧になった通り、このままでは泰俊は長くない。結界を張り直し、肉を齧られる事は無くなったが思いは届く様で日に日に痩せ衰えて行く。泰俊が衰えれば衰える程、彼の娘は女へ、母へと成長して行くのじゃ。もう見た目は二十歳前後の娘・・・時がない。」

庭で見た座った歪な印象の女の人・・・あれが泰俊が井戸で見た小さな女の子の成長した姿だったのか? ゾクッときた。その事を告げると、

「ふむ・・『晦日封じ』でも『節季封じ』でも『歳封じ』でも駄目。君にも見えた程となると厄介な・・やはり井戸へ返して・・・『とどめ』かの・・・。」

いきなり道俊和尚は姿勢を正し、俺に頭を下げて
「“泰俊”を井戸へ下ろし魔物に引導を渡す。孫を救ってやって欲しい。」 と声を振り絞る。


俺は短く 「はい。」 と応えた。








俺の名は“泰俊”。今、呪われし井戸の底に居る。

フラスコの底の様な形状で思いの外広く、手に持ったたいまつの炎でも全体を照らす事は困難だ。普通の井戸の底に後から手を加えたのは明らかで、一角に盛り土が見える。恐らくはここに水子を埋めたのだろう。井戸の底がそのまま水子の娘の為の霊廟と化している。

何時からか「ニューニュー」と声が聞こえ始めた。まだ娘は現れない。

一瞬、水中に落ちた様な異様な感覚が体を襲う。

途端に体中に痛みが走り、「ブチッ・・グチャ・・ビリィィィ」 肉が裂け血が滴る・・。生きながら喰われる恐怖。
見えないが『蜘蛛水子』が俺の体を喰い始めたのだ・・・。

俺はいつしかこいつ等の父となったのだ。これで友明は助かるだろうと何となく感じた。

俺はまだ声を出す事が出来ない。必死に耐え、娘が現れるのを待つ。しかし、どうしても痛みが耐え難くなり容器に入った“俺”の血を壁に投げつけた。

重い水中に居るような感覚が遠のく・・・しかしすぐに元に戻る。気が遠くなりかけた時、今までとは違う感覚を感じた。あの歪な感覚。

微笑む女。いや、初代泰俊の娘にして『蜘蛛水子』の母親。井戸の主。違う・・・井戸本体か?

朦朧とした意識の中、彼女に向かって俺は初めて言葉を発した。心の中で念じる様に、一語一語心を籠めて・・・


「父たる我は主が世にいづる事を願わず。速やかに、いね(帰れ、去れの意)。」


自分の血で汚れた経本の様なモノを娘ごしに盛り土へ投げつけた。パッと花火がちり辺りを照らす。

彼女は悲しそうな顔をしてクシャクシャに崩れていった・・・生皮が剥がれ落ちるように・・・。
ポトポトポトと音がする。『蜘蛛水子』が堕ちる音か?

後にはたくさんの青い玉の様なモノが在ったが、それも地面へと吸い込まれていった。悲しい儚い色だった。後で聞いたが『魄』(はく)というらしい。

意識が無くなる寸前、俺の体に巻きつけられたロープがキュッと締まるのを感じた・・・。




(たった一言の言の葉で、気の遠くなるほどの長きにわたる呪が解けたのか?初代泰俊の父としての想いの強さがこの魔物を産む一因となったのか?何故、旅の雲水は・・・)

疑問の嵐の中ふと俺は目を覚ました。襖が開き例の目つきの鋭い若い僧が顔を覗かせる。俺が目覚めたのを確認すると泰俊と道俊和尚を伴って部屋に入ってきた。


俺は泰俊が籠っていた部屋で寝かされていた。痛みをこらえながら傷で火照った体を起すと、泰俊が近づいて来て「寝ていろ・・・。」 と短く言った。幾分、膨らみを取り戻した体に強い眼差し。こいつはもう大丈夫だ。と俺は思った。
思わず笑い返す。

 
「康介君。孫の身代わり、何度礼を言ってもたりぬくらいじゃ。『転魂の法』は泰俊と魔物、双方に縁がある者しか出来なんだとは言え、君の体と心を損なう事を思えばやはり外法であった。申し訳ないと思うておる。しかし、これしか泰俊を救う法もなかったのも事実。許されよ。」 深々と頭を下げる道俊和尚。

俺は達成感と幾ばくかの寂しさに浸りながら「いえ・・親友二人のためですから。」 と小さな声で答えた。

「わはは。そういってくれるとわしも救われる。君は三人の人間を救うてくれたわい。ありがたい事じゃ。しかし、わしはろくな死に方は出来そうにないの・・・。人呪わば穴二つ・・・やれやれ。さてとわしは仕事があるのでこれで失礼するよ。・・・泰俊。しばらく彼と話をしなさい。」
もう一度俺に頭を下げ和尚は若い僧と部屋を出て行った。


部屋に残った泰俊と俺はしばらく無言だった。それは泰俊が何かを語るその決心がつかずにいる為の沈黙だった。
「今更なんだ?言いたいことは今言え。」 俺が切り出す。

ニコッと泰俊が笑う。久しぶりに見たイイ笑顔だった。

「お互い虫に少々齧られたが、お前は少し利口になったな。」 いつもの憎まれ口をたたく。

「康介。お前が疑問に思っているだろう事を教える。あの娘は元は普通の『蜘蛛水子』だ。それを封じて井戸の中で共食いさせ井戸が持つ母としての呪力をも吸収して強力にしたのが・・・友明の話に出てきた『旅の雲水』だ。・・・名を・・・日正(にっしょう)という。」

「泰俊・・・なんでそんなにくわしいんだ?」

泰俊 「ああ・・・俺の先祖だからだよ。彼は・・・。あの娘はいわば彼の我々一族へ対する過去からの刺客なんだ。初代泰俊は血肉を分けた親。俺は魔物の産みの親である彼の血族。俺が親と慕われたのは名前だけではなかった訳だ・・・。」

俺 「なぜ、日正は血筋の者を呪うような事をする?」

泰俊 「それは・・一族を挙げて彼を殺そうとしたからだよ。今も・・・。」

俺 「え??なにそれ??」

泰俊 「いや・・いい。この件はすっかりお前のお陰でカタがついた。じい様も言っていたが俺からも礼を言う。何と言っても俺はここで髪の毛をお前に食わせ寝ていただけだ。半端な俺を良く助けてくれた。本当にありがとう。俺も家を継ぐ事に決めた。親父も帰ってくるし、じい様の別件の仕事はとりあえず数日でカタがつく。そうしたらいよいよ徳度して坊主だっ。」


笑顔の泰俊。もう話す事は無いと眼が語っている。

泰俊は俺とは別の道を進もうとしている。昔の様な馬鹿はもう出来ないだろう。そして俺は多分、元の生活に戻れるだろう。友明も・・・。

俺が感じた達成感と幾ばくの寂しさ・・・俺は友を助けたつもりで実は失ったんじゃないだろうかとふと思った。



開け放たれた襖の向こう。外の光が異様な程まぶしく感じた。
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