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ブックマークに溜まった怖い話を集約
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箱の中の少女
636:1/5 :03/07/03 18:07


十年以上前の話です。当時、私の祖父は腕の良い建具職人でした。
私はそんな祖父の仕事ぶりを眺めるのが好きで、よく仕事場に出入りしていました。


その日、私はいつものように祖父の家を訪れ、落ちている木ぎれを拾って遊んでいました。
目の前で、祖父が作業台の前に座って、黙々と仕事をしています。
ごつい手が器用に動いて、木を削ったり部品同士を組み合わせたり、
その技の冴えに、私はしばし遊びの手を止めて見とれていました。

しばらくして、妙なものに気づきました。
祖父の背後の壁に、使い込まれて黒光りする木の板が、何枚か立てかけてあったのですが、
その板と板の隙間から、おかっぱ髪の少女の顔が覗いています。
板と壁の隙間から、顔の右半分を出して覗いているような格好で、体は見えません。

白い顔の半分だけが、暗い部屋の隅に、ぽつんと浮かんでいるように見えました。
私は、黙々と手を動かしている祖父の横を通り過ぎ、壁際へと歩み寄りました。
私が近づいても白い顔は微動だにせず、祖父の背中をジッと見つめていました。
やはり体と顔の左半分は見えませんが、壁と板の間には人が入れる程の隙間はありません。
私は少女の顔に声をかけようとしました――


637:2/5:03/07/03 18:09
「…話しかけたらあかんぞ」
突然祖父が声を上げました。聞いたこともないような低い声。
振り返ると、祖父は相変わらず作業台に向かったままで、こちらに背を向けています。

――おじいちゃん、この子だれ?
「そいつはな、俺がそこの木で作った箱の中におった女や。ええから放っとけ」
その言葉の意味は分からなかったのですが、私はとりあえず壁際から離れました。

その後も祖父は、背後を振り返ることなく仕事を続けていました。
私は再び木ぎれで遊び始めましたが、何となく気になって祖父の背後を見やると、
いつのまにか顔は姿を消しており、後には艶めいた黒い板が並んでいるばかり。

祖父の家にはその後も良く遊びに行きましたが、その顔を見ることはありませんでした。
それから十年程たった一昨年の初春、祖父は病に倒れて入院し、間もなく亡くなりました。


638:3/5:03/07/03 18:10
葬儀の当日、棺の中に入れるために、祖父の思い出の品を集めました。
その中に、小さな木の箱がありました。10cm角くらいの、黒っぽい艶のある箱。
それを見た途端、あの日、壁に立てかけられていた木の板が脳裏に浮かびました。

――あの板で作られた箱ではないか?
持ってみると意外にも重い。蓋がないので振ってみましたが、何の音もしません。
死の直前まで面倒を見ていた叔母が言うには、
晩年の祖父はこの箱をとても大切にしており、病院でも枕元に置いていたそうです。
それではと、箱は祖父の頭の側に置くことにしました。

やがて葬儀が始まりましたが、その際に妙なことがありました。
お坊さんがしきりに棺の方を覗き込むのです。
不審に思った父が聞くと、
「この人、本当に死んでますよね?」などと、良く分からないことを言います。
父は少しあきれた様子でした。

お経を読んでいる最中にも、お坊さんはしきりに棺を気にするような仕草を見せ、
何度か読経が止まりかけました。


639:4/5:03/07/03 18:11
葬儀が終わり、祖父の遺体は火葬場で焼かれました。

焼き上がった骨を拾うために親族が呼ばれ、焼却炉から大きな台が運ばれてきました。
近づくと、まるでストーブのように熱い台の上には、白い骨が灰に埋もれていました。
それを鉄の箸で拾うと、係員が骨の部位を教えてくれます。
「…頭蓋骨はあとで蓋に使うので、置いといて下さい」
「のど仏はどれ?」
「これです」
拾った骨は次々に壺に入れられました。しかし壺はなかなか一杯になりません。

「もっと拾って下さい」
「はぁ…でも、あまり残ってないんですね」
「ここの炉は新しいので、殆ど焼けてしまうんです。
お年寄りの方は大抵少ないですよ。この方のは多い方です」
「丈夫な人でしたから…」
「これは?」
「それは骨盤ですね。その横が太股の骨ですね」
「これは?」
「のど仏ですね」
部屋にいた皆が、怪訝な顔を見合わせました。のど仏の骨はさっき壺に入れたはずです。
係員が集めた頭骸骨を調べ始めました。
「これは――骨が多いですね…」


640:5/5:03/07/03 18:11
それからが大変でした。
警察が来て、私達は帰ることが出来ずに火葬場に釘付けです。
火葬場の職員と警察が調べたところ、骨は大方が灰になっていたものの、
とにかく、頭部の骨が二人分ある事が判明しました。

ただ、それが誰の骨なのかが不明です。
私達は何度も取り調べを受けましたが、なぜこんな事になったのか見当もつきません。
棺の蓋は出棺の直前に参列者の目の前で釘を打ったのですが、
その時まで、もちろん棺の中に人の首など入っていませんでした。

入っていたものと言えば、祖父の遺体と遺品の数々、それにあの黒い箱だけです。
大きさからいって、箱の中に人の頭が入っていたとは思えません。
では、中に骨だけが入っていたのか?
しかし、肉の付いていない剥き出しの骨は、すぐに燃えてしまい後には残らないそうです。
結局、何の結論も出ないまま、夜更け過ぎには解散となりました。

祖父の遺骨は一時警察に預けられましたが、四十九日までには返してもらったようで、
今は墓の下に埋まっています。
身元不明の骨については、後日、のど仏の部分を警察から譲ってもらいました。
それを小さな箱に入れて、祖父の墓の隣に埋め、墓石の代わりに大きな石を置きました。
今のところ特に変わった事はありません。
ことの真相は、今も分からずじまいです。
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